一 級 建 築 士 事 務 所
石 山 美 法 建 築 設 計 ア ト リ エ
Yoshinori Ishiyama architecture design atelier
Detailed efforts




House in kotohira
2021.3 complation
所在:香川県
大地に根付く
香川県琴平町にて、農家住宅の建て替えをご依頼いただきました。
敷地は西に象頭山(ぞうずさん)を望み、その中腹には著名な金刀比羅宮が鎮座しています。建築界では、鈴木了二先生による「緑黛殿」が位置する場所としても知られています。
ご主人はこの地で生まれ育ち、ご先祖が安住の地として根付いた場所でもあります。時代の流れのなかで一度は故郷を離れ、家族を築き生活を営まれてきましたが、お母様が一人になられたことを機に、ご夫妻、ご家族の将来を見据え、再び故郷に帰ることを選ばれました。
設計者として、この「再び土地に根付く」という行為の意味を深く感じ取り、愛着と誇りを持って、次の世代へ引き継がれていく住まいを共に形づくりたいと考えました。
計画の方針
建主のご要望は、仕事に使えるフリースペース(多目的空間)を設け、動線を整理した明るく風通しの良い空間とすること、そして予算内で完結させることでした。これらを踏まえ、計画の柱として次の3つのテーマを設定しました。
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先祖代々の土地・建物に「臨在感(りんざいかん)」を感じる仕掛けを設けること。
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田舎のコミュニティとプライバシーの距離感を考察すること。
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予算内で実用性を確保しつつ、その条件下で空間美を追求すること。
敷地と配置の検討
敷地は東側に里道があり、大通りへの近道として歩行者や自転車、原付の通行が多い場所です。南から西にかけて町道が走り、川向こうの町道へは鉄骨橋でつながっていますが、車は通行できず、主に歩行者や農機が利用しています。西には象頭山を望み、川が流れ、周囲には建主の所有地を含めて田畑が広がっています。
これらの条件を踏まえ、視線や距離感、そしてコストのバランスを考慮したうえで、建物を南北軸に沿って細長く配置しました。こうすることで生まれる余白を活かし、土間空間を多く取り入れて視線を低く抑え、大地に近い居心地を意識しています。保存した農業倉庫や畑の眺めを取り込み、旧家から移設した書院や欄間、床柱を添えることで、土地の記憶や家の“臨在感”を空間に宿らせました。
空間と構造の工夫
空間美の追求にあたっては、コストを意識しつつも木架構による屋根の「空(そら)」を丁寧に設計しました。搬入経路の制限から材長を5m以内とし、流通材を活用するなど合理的な工夫を重ねながら、軸組の反復によって方向性と広がりを生み出しています。
また、地域のコミュニティとの関係を考え、フリースペースを前面に配置。外に向かって大きく開く計画とし、東西の板塀によってその開放性をさらに強調しました。この板塀は農業用倉庫を含みつつ、プライベート領域を守る役割も担っています。道路の高低差を考慮し、東西両側に適度な余白を設けることで、田舎特有の“ちょうど良い距離感”をつくり出しました。
仕様と環境
外壁と屋根は、耐久性と経済性を兼ね備えたガルバリウム鋼板仕上げとし、開口部にはアルミ樹脂複合サッシを採用。ガラスは複層Low-E仕様とし、適度な気密性を確保しました。
また、土間の熱容量を活かすとともに、この地に吹く卓越風を考慮して、開口部の位置と軒の出を建主と共に検討し、実用性と快適性を両立させています。
最後に
建主、設計者、施工者、そして多くの職人が一体となり、この住まいが完成しました。
この地に再び根を張り、世代を超えて受け継がれていくことを願っています。