一 級 建 築 士 事 務 所
石 山 美 法 建 築 設 計 ア ト リ エ
Yoshinori Ishiyama architecture design atelier
Detailed efforts




House in Ainan
2014.completion
閉じながら開くということ
所在:愛媛県
近年の都市型住宅では、建物を外部へ開くことでコミュニティの再構築を図る試みが多く見られます。
その考え方に興味を持つ一方で、私はそこに一つの疑問を感じていました。
プライバシーのあり方を考えると、都市部と田舎の住環境における「プライバシー」は同義ではありません。
つまり、田舎のコミュニティと都市部のコミュニティでは、関係の密度や「干渉」のあり方が大きく異なります。むしろ田舎では、日常的な干渉の度合いがより高いとも言えるでしょう。
そのような環境の中で、単純に建物の“透明性”によって開くという手法が、本当に有効なのか? そうした問いから、私は田舎にふさわしい新たな住宅のあり方を探りたいと考えました。
依頼主からの要望は、予算内で明るく、風が抜け、そしてプライバシーに配慮してほしいというものでした。
ここで改めて「田舎におけるプライバシー」とは何かを見つめ直す必要がありました。
人との関わりが密な一方で、昔ながらの垣根で敷地を囲い、視線を遮ることで外部領域と家族領域を明確に分ける、それが田舎の暮らしに根ざした距離感なのだと感じました。
計画では、まず地面や道路に近い部分を徹底して閉じることで、建主の安心感とプライバシーを確保しました。
一方で、閉じすぎることで生まれる圧迫感を和らげるため、屋根の稜線や空へ向かう開放的な構成を外部側から獲得できるように意識しました。開口部は意匠と機能を両立させ、光と風を的確に内部へ導くように設計。距離感を意識しながら空間を分節し、玄関と応接を兼ねた土間を一体的に計画しました。壁ではなく天井で領域を切り分けることで、ゆるやかに場をつなぎ、広間を中心とした生活の中に、土間・デッキ・バックヤード・畑へと続く空間の広がりを生み出しました。
つまり、「閉じながら開く」住まいを目指したのです。
設計と素材の工夫
機能面では、田舎の厳しい自然環境に十分対応できるよう配慮しました。
1階の大開口部(既製サッシ)は台風への備えとプライバシー確保のため、外部格子戸(雨戸)を設置。
2階の大開口部は透明性を確保しつつ、安全性の観点から合わせガラスを採用しました。
外壁には、虫や苔といった自然要素に強く、経年による風合いの変化が楽しめる 地場産杉板(厚板)を使用しています。
全体として既製品を多用し、コストコントロールを図りながら、必要な箇所に特注部材を組み合わせて空間の質を高めることに注力しました。施工は分離発注方式を採用し、地元の職人たちが協力し合いながら工事を進行。
お互いの絆を育みながら進めた結果、円滑な施工と予算内での実現につながりました。
建主も毎日のように現場を訪れ、住まいへの愛着を深めていかれたように感じます。
最後に
竣工後、建主から「最初はびっくりしたけれど、夏は風が抜けて涼しく、冬は陽の光が部屋いっぱいに届いて暖かく、とても快適です」とのお言葉をいただきました。
この住まいが、田舎における“開く”ということの新しい答えになっていることを願っています。